



二戸一の大きな家
Two per unit house
用途:長屋
敷地面積:211.61 ㎡
建築面積:105.70 ㎡
延床面積:211.40 ㎡
階数:2階
構造:木造
施工:ワイズコンストラクトオフィス
構造設計:円酒構造設計
写真:中山保寛
理の循環
近代以降の都市を構成する住宅の多くは、それらを取り巻く市場原理によって、敷地の中に利益の最大化のため目一杯の床面積という欲望を詰め込んでいき、内部が肥大してぶくぶくと膨れ上がった外形を斜線制限などの人為的な規制によって切り欠いていき、外観とはいえないものが他律的に決定され建ち現れる。加えて、いまだ核家族を基本単位とする傾向は根強いため、結果として同じような住宅で街が埋め尽くされ、均質化してしまう。気候風土や生活様式を全国ほぼ一律として扱うため、その影響範囲はとどまるところを知らない。この事態を単純に否定して距離を取ったとしても、肯定して無批判に適用したとしても、町の風景や多様さは失われていく一方だ。そうであるならば、その中に飛び込み、市場原理を批判的に乗り越え、都市における住宅の構えと質を問うていかなければならない。
このプロジェクトの舞台は私が生まれ育った町だ。もともとは農村集落であり、私が物心ついた頃にはすでに宅地化が進んでいたが、まだ田んぼは多く残っていて、稲刈りの後はそこが広場となり、脇に流れる水路も通りも格好の遊び場だった。地の人の家の多くは大らかな入母屋の屋根を有し堂々とした構えをもっていた。しかし宅地開発によってつぎつぎと土地が細かく切り売りされてしまい、この町の風景や多様さは失われていった。宅地開発とセットとなる高度に工業化・商品化された建売住宅や注文住宅といった市場原理で雁字搦めの量産型住宅は、町を豊かにしているとはいえないが、そのコストパフォーマンスは否定できない。このプロジェクトはそういった量産型住宅のコードを踏襲するように広い敷地を半分に割り、ローコストの核家族向け賃貸用戸建て住宅を2棟建てるという不動産事業から始まった。郊外の住宅地では、人口が減少していき、空き家が増えていくことは容易に想像がつく。これ以上同じような戸建て住宅が増えていっても良質な都市のストックにはなり得ない。同じような間取りで面積も駅からの距離も大して変わらず、築年数、設備のスペックなどの不動産の記号的な価値によってのみ差異化が計られ、古いものがつぎつぎに淘汰されていくという不毛なサイクルを生むだけである。とはいえ、当面の需要に合ったものをつくらないと事業収支が成り立たない。付近の家賃相場などから坪単価40万円代の工事費に抑えることも事業としての前提条件であった。
そこで建主と議論を重ね、ふたつの戸建て住宅を一体化、つまり2棟長屋(通称二戸一)とすることで、現代の量産型住宅のコードの中で構えと質を模索していくことにした。当面の間は3LDK100m2の住戸がふたつある状態とし、構造計画において住戸間の界壁を抜けるようにしておき、将来的には200m2超のひとつの大きな家とすることで使い方の幅を広げる。二戸一にすることで外壁量の低減とスケールメリットによるコスト減にも繋げる。そして、本来2棟の間に必要であった民法の離隔1m(50cm+50cm)分を消去し、配置に余裕をもたせ、斜線制限からの逃げを確保し、外観を意識的に構築していける状況をつくった。
量産型住宅の外観で特に気になるのは屋根がないことである。正確には屋根はあるのだが、その歪な外形に蓋をするように場当たり的に付けられているため屋根というものは意識されていない。本来であれば全体に大きく屋根を架ける方が合理的であり、風景と応答できるはずだ。この住宅では片流れ屋根や切妻屋根などのどこまでも無限に連続する開かれた幾何学の切断面が現れるような形式ではなく、ふたつでひとつを表明する自律的な閉じた幾何学が現れる形式を求めた。その屋根に包まれるプランは界壁を境にふたつの住戸が左右対称となるようにした。対称性はコスト効率もさることながら、一体化した際にはさも元からそうであったかのように振る舞うだろうし、スケールの壮大さを感じさせるだろうと考えたからだ。そこで屋根架構は方形をふたつ並べて繋げ、左右住戸それぞれで完結しているように見え、一体化した際には新たな全体性を帯びるようにした。登り梁と小屋梁を45度振ったX型に架け渡し、屋根の剛性を確保しながら、空間の広がりと周囲に向かって開いていく方向性をつくり、この地域の主に東西南北軸に対してX方向に吹く風を効果的に取り込む暮らしを視覚化している。構造部材が集中する箇所は取り合いをずらすことで、接合部を極力プレカットの加工能力で対応可能な仕様としてコスト削減を計りながら、部材同士の歪な衝突を避けて組み方を明瞭に見せると同時に、ずれが生み出す隙間に光と影が回り込むことによって構造体を浮き立たせている。屋根勾配は大きければ大きいほど雨水の切れはよいが、それに伴う風圧の増大、屋根面積の増大によるコスト増の兼ね合いを考慮し、材料に適したかたちを屋根の職人と相談しながら決めていった。単位が小さく軽量なアスファルトシングルは施工性もよいため、5.5寸まで勾配を上げても職人ひとりで屋根足場なしで施工もメンテナンスもできるという助言をもらい、その勾配を基本としながら、構造体のずれからくる棟付近へ向かっての勾配の切り上げは、人が立って作業ができる範囲で折れ点を設定し、もち上げられた棟木を両側に突き出して妻面に排煙用の窓を納めた。このようにしてふたつの方形から寄棟へ、そこから入母屋へと変移し、大らかな屋根を形成していった。ファサードはサイディングとアルミサッシの規格寸法を元に割り付けをし、1階を低く抑えて地続きの空間としながら周囲から屋根が見えやすいようにしている。また、駐車場は私的な領域としてつくり込まずに道が拡幅されたような場所として、車が停まっていない時には近所の子供たちの遊び場となるようにした。
今回は賃貸住宅2軒から始まり導いた回答ではあるが、高密に建て込んだ地域において複数の建物を一体化し、敷地を大きくすることで配置に余裕をもたせて外観を意識的にとらえ、将来的に内部を繋げて別の新たな質を生み出していく手法は応用可能だろう。そして、プログラム、技術、サイトの各方面から丹念に本当の理を追求していくと、結果として地の人の家の佇まいに再接続していくことを確認した。通りがかりの人から昔の民家のようだと声をかけられる。それもそのはずで、かつての民家は現代の住宅とは違い、人為的な規制を受けていない自律的で堂々とした構えをもっていた。一方で、気候風土、生活様式を元につくられていくという意味では他律的であり、
屋根形状は雨を適切に受け流すために材料に適した勾配や施工性から導き出され、それらがひとつの風景となっていたのである。