



富士吉田の保養所
Resort House in Fujiyoshida
用途:保養所
敷地面積:534.86 ㎡
建築面積:235.22 ㎡
延床面積:322.44 ㎡(増築部分:230.53 ㎡)
階数:2階
構造:木造
施工:株式会社滝口建築
構造設計:井上健一
写真:中山保寛
富士吉田市に建つ保養所の計画。敷地は富士山にほど近いエリアに位置し、自然豊かで眼前に桂川の清流があり、木々の間で心地よい水の音が響いている。敷地内には既存の浴室棟が残っており、川側からは石積みの法面と階段が入り込んでいた。それを跨ぐように3,640mmピッチの柱間の高床建築を重ね、単純な幾何学によって対比的に自然を引き立たせて景色を取り込む家と、その下に、自然と馴染んで川へと連続していく軒下空間をつくった。
グランドレベルでは柱間を基点として、小上がりの畳の床面、下見板張りの外壁や塀、石積みの柱の根巻き、RCの回り階段と鉄の吊り階段、土のヴォリュームなど、建物の各構成要素を自律的なオブジェクトとして扱い、既存のモノや環境を巻き込み新旧が一体となったランドスケープとなるようレイアウトしていった。
引いた視点で見るとそういったランドスケープの上に家が浮いている構成だが、この建築のシークエンスの中ではそのとらえ方も変化していく。近づいていくと家の床が盤面として自律的に見えたり、2階に上がると次は屋根が切り離されて浮いているように見えたり、収納がヴォリュームとして置かれたように見えたりと、家自体もオブジェクトの集積であることが認識される。各構成要素が自律的に振る舞えるように、構造の取り合いは注意深く関係を切っているため、不思議な分節感・浮遊感を帯びている一方で、柱間によってそれらがひとつの秩序の中に統合されている。建主はほかにも保養所をいくつかもっており、それらの竣工後には多くの骨董品や絵画がもち込まれていた。この保養所もこれからさまざまなモノで彩られていくであろう。プログラムによって違いはあれど、建物ができたらそこには多種多様なモノがもち込まれる。更にアクティブな使い手であれば建物自体に手を加えて改変していくだろう。建築は竣工がゴールではなくスタートであり、動き続けるものだ。この保養所では、オブジェクトをそれ自体で完結したものとしてとらえ、モノと建築の間のスケールを与え、多様な仕上げやニュアンスをもたせている。モノが交換可能なように、オブジェクトに対して仕上げの変更など多少の改変が加えられたとしても建築全体としての構成や意味は生き続ける。すでに、ピロティの天井の朱色、2階の内外の壁の鏡貼り、客室の欄間や化粧柱などが建主によってもち込まれている。
移ろいゆくモノとオブジェクトの集合体が建築であり、それらを環境に対してレイアウトしていくことで、人やモノ、建築、自然がグラデーショナルに混じり合う状態をつくり出そうとしたのである。